優駿(上)、優駿(下)

馬よりもむしろ競走馬に魅せられた人たちの欲望が渦巻いたお話です。章毎に主要な登場人物が入れ替わりますが、最初に出てきた馬や牧場の青年を中心に話が進むかと思ったら、途中かなり放置されてびっくり。特に馬は登場人物をつなぐかぎですが、馬自体は1/3ぐらいしか出てこないので、馬好きの自分にとっては少し残念。周囲の人間のどろどろ話に結構ページを使っていて、別に競馬の話にしなくてもなあ、と思ったり。ただ、そうはいっても最後はきれいにまとまってはいます。
いきなり不満ばっかりでしたが、主役の馬(オラシオン)とオラシオン主戦ジョッキーのかつてのお手馬(ミラクルバード)の皐月賞のシーンはハラハラドキドキでした。ミラクルバードの皐月賞は衝撃でした。個人的にはミラクルバードの方が好きです(馬主含め)。それ以外もサラブレッドの3大始祖などきちんと調べている点は好感がもてます。


最後に好きな文章を引用します。

生き物はみなそれぞれに美しい。だが人為的に作り出されてきた生き物だけが持つ不思議な美しさというものが確かにある。サラブレッドの美しさが、その底に、ある哀しみに似たものをたたえているのは、他のいかなる生き物よりも過酷な人智による淘汰と、その人智だけでは到底知ることのできない生命の法則との対立によって生み出されてきたからなのだ。