コーカサス 国際関係の十字路

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)

コーカサス国際関係の十字路 (集英社新書 452A)


コーカサス地方グルジアアルメニアアゼルバイジャンチェチェン)の国家、共和国の国際問題を扱った本です。今グルジアで大変なことになってますね。ロシアがものすごく叩かれてますね(ロシア政府のしていることは良くないことですが、それでも相手のグルジア政府もやってることはそんなに変わらないとは思うんですけど;それこそNATOが肩入れしているか否かの違いしかないと思います)。ただ大国の縄張り争いに巻き込まれている住人にとってはとんでもない話だと思います。
そもそもこの地域の民族、宗教が多様でその分布と国境が一致している訳ではないので、紛争が起こりやすい地域のようです。今回の事件の発端もそれですし。これらの国家について知るには便利な本だと思います。事件前(先月)に買ったんですが、こんなにホットな話題になるとは思わずでした。
個人的に初めて知ったことを以下に列挙します。

  • オスマン帝国アルメニア人に対して、1915年から数年にわたり大虐殺を行ったため、アルメニアとトルコの関係は緊張している。
  • 世界的に活躍するアルメニア人、もしくはアルメニア人の末裔とされる著名人が多い;(例)指揮者のカラヤン、作曲家のハチャトゥリアン、画家のゴーキーなど。そして、アメリカやフランスでのアルメニア・ロビーの影響力は大きい。
  • アゼルバイジャンはイスラム教シーア派が多数派を占めるがイスラエルとの関係は良好。背景には歴史的にユダヤ教徒がアゼルバイジャンで平和的に暮らしてきたことへのイスラエルの謝意がある。
  • グルジアの「バラ革命」(背後にはアメリカの支援があると考えられている)により官僚、警察の腐敗は改善された面はあるが、民主的な選挙で政権を勝ち取ったサアカシュビリ政権は非常事態宣言など強権政治を行っている。
  • チェチェンの武装勢力は穏健派と過激派に分かれているだけでなく、さまざまな派閥があるため、チェチェン人のテロは一派閥の意志で行われていると考えられる。
  • ロジア人は歴史的に南北のコーカサス人を差別する風潮がある。そのためチェチェンをたたけばたたくほどロシア政府の人気があがるという現象が生じる。
  • スターリン時代に敵性民族とみなされ強制移住、労働を強いられたイングーシ人は不在の間にオセット人が住みつき、トラブルとなっている。
  • アメリカはアゼルバイジャングルジア、トルコを通る(ロジアを経由しない)BTCパイプラインの建設の最初推進していたが、2006年7月の開通式にアメリカの要人が一人も出席しないなど、この地域に対して必ずしも反ロシア的な態度を一貫してとっているわけではない。

バラ革命(そもそも革命と呼ぶのがふさわしいのか、という疑問もありますが)もそうですが、冷戦時代からアメリカが中南米や東南アジアなどでクーデタを支援した政権というのはアメリカの傀儡に過ぎず、独裁になりがちで民衆のためにならないことが多かったと思います。そういう状況が未だにあることが残念です。