宇宙「96%の謎」

宇宙論の本を読んだのは学生時代以来でした。用語はなんとなく覚えていても詳しい内容やエッセンスについては知らない(もしくは忘れた)ことが多かったので勉強になりました。筆者はインフレーションを提唱されたこともあり、特にインフレーション理論についてはわかりやすく書かれていました。

1987年の超新星爆発の際に筆者が徹夜してニュートリノ・バーストを解析した話は一番印象に残りました。大変な仕事だとは思いましたが、研究者としてはやりがいのある仕事だということを感じました。そういう世界最先端の研究、開発をしているのは本当に楽しいと思います。

本書の内容を100%理解できたわけではありませんが、個人的に始めて知ったことや重要だと思うポイントを(自分のために)まとめました。

宇宙創世のシナリオ

1. 宇宙は時間、空間、物質のまったくない”無”の状態から、量子重力的効果によって創生された。
2. 創生された量子宇宙は、素粒子の大きさにも満たない、「プランク・サイズ」と呼ばれるサイズの宇宙だが、それが「インフレーション」と呼ばれるメカニズムによって、ただちに何十桁、何百桁と引き伸ばされ、マクロな宇宙となった。そして、潜熱の解放により、”火の玉宇宙”(ビッグバン)となった。インフレーション中の量子ゆらぎは引き伸ばされ、今ある宇宙構造の”種”が仕込まれた。
3. また、その中での「相転移」の進み方が空間的に異なれば、子供宇宙、孫宇宙がその中からも生まれる。それらもまた、マクロな一人前の宇宙へと進化することができる。
4. それらの中から銀河が生まれ、星が生まれ、また人類が誕生するというドラマが進行する。

インフレーション理論で解けた問題

ビッグバン前に銀河や銀河団、グレートウォールなどの”種”を仕込むことができ、平坦性問題や、地平線問題などが原理的には解けるということ。
特に平坦性については、昔、一様であった小領域が引き伸ばされただけのこと。この外が凸凹だらけであっても、何ら構わない。そこは見えていない外の世界だから。

インフレーションモデルだとモノポールが宇宙に(見え)ないということが説明できる。インフレーション前の宇宙が1つのドメインより小さければ、インフレーションで膨張した後では全然見えなくなってしまう。

真空のエネルギーとインフレーション

インフレーションモデルと切っても切れない関係にある「真空のエネルギー」について基本的な点をまとめました。

量子論的真空とは、決して何もない状態ではなく、物質と反物質が生まれたり消えたりして、ゆらいでいるということなる。つまり、真空とは何もないのではなく、物質が最もない状態、エネルギーが最小の状態。

宇宙の土台を作った「真空のエネルギー」が、現在でもある程度残っていたことが観測でわかった。というよりは、実は私たちの宇宙は依然として、物質や光を合わせた量を上回る膨大な「真空のエネルギー」で満たされている。

宇宙は開闢のころ、「真空のエネルギー」に働く宇宙斥力により加速度的に急激な膨張を起こし、その急激な膨張が終わるとき、「真空のエネルギー」が熱エネルギーとして解放され、今日の火の玉のエネルギーとなった。そして、ある時点までくると、もう我慢できなくなり、真空のエネルギーは急落する。

暗黒物質の候補
  • ニュートラリーノ … 超対称粒子の中で、安定で電気的に中性であるフォティーノなどの総称。
  • アクシオン … 磁場の影響で光子に変わる性質がある。電子の質量の1000億分の1から1兆分の1程度という、非常に軽い粒子。そもそも強い力のCP対称性を保証するために考えられた粒子。
観測技術の向上

宇宙論は理論が先行している印象がありましたが、インフレーションモデルを裏付ける観測結果が得られていることに驚きました。

COBE衛生は宇宙開闢からわずか30万年しか経っていない宇宙の姿を描き出し、そして宇宙の背景放射の中にゆらぎを発見したことにより、インフレーション理論は大きな支持を得たこと。

「ブーメラン」「マキシマ」と名づけられた2つの気球での最新の宇宙背景放射を観測した結果、曲率がゼロ、つまり宇宙が平坦であることを示したこと。