フラット化する世界(下)

フラット化する世界 [増補改訂版] (下)

フラット化する世界 [増補改訂版] (下)


アメリカの教育に対して警鐘を鳴らしている第8章「静かな危機」と第9章「これはテストではない」では、筆者は主にアメリカに対して言及していましたが、同じことが日本にも当てはまるのではないかと強く思いました。
その中でも特に印象に残ったMITの名誉教授だるポール・A・サミュエルソンのインタビューを引用します。

「われわれはいまも自転車競争の先頭を走っていて、あとをついてくる選手の空気抵抗を減らしてやっているが、その差は縮まっている。最先端の国というアメリカの立場は、どんどん危なっかしくなっている。なぜかというと、蓄えがきわめて乏しい社会になってしまったからだ。すべて自分、自分、自分、そして今ー他人や明日のことは、まったく考えない問題は指導者ではなく有権者だろう……昔は、科学者になるような頭のいい子は、難しいパズルに取り組んでいた。いまはテレビを見ている。気が散ることがあまりにも多いのも、自分、自分、自分、そして今、という考え方が蔓延している理由だろう。」

その他にはグローバル化のメリットの一つとして提示していた「デルの紛争回避理論」もユニークだと思いました。概要を引用します。

デルが採用しているグローバル・サプライチェーンに組み込まれた二国は、双方がそのサプライチェーンの当事者であるかぎり、戦争を起こすことはない。なぜなら、巨大なグローバル・サプライチェーンに組み込まれた人々は、昔ながらの戦争をしたいとは思わなくなるからだ。それよりも、カンバン方式で品物やサービスを提供し、それがもたらす生活水準の向上を享受するほうを望む。


グローバル化という変化はもう止められないと感じましたが、その変化に対峙するときの心構えとしてカーネギー国際平和基金理事であるデビッド・ロスコフが言っていた言葉がヒントになるのかなと思いました。

何が変わったかではなく、何が変わらなかったかを認識することが、われわれに答をあたえてくれる。なぜなら、これを認識して初めて、ほんとうに重要な問題に集中できるからだ。

最後に企業がフラット化、グローバル化に対峙するときの心構えとして筆者が挙げていたポイントを自戒の意味も込めて引用します。

1. 世界がフラット化すると、できるようになることは、なんでもなされる。唯一の問題は、それを自分がやるか、自分に対してなされるかだ。
2. ルールその1の副産物。できるようになったことはなんでもなされる世界になったいま、最も重要な競争は、自分と自分自身のイマジネーションの間でなされる。
3. 小は大を演じるべし……大物ぶるのが、フラットな世界で小企業が繁栄する1つの方法だ。イマジネーションは必要だが、それだけでは足りない。想像したものを工夫できなければならない。小が大を演じる秘訣は、より遠く、より速く、より深いところを目指し、共同作業の新しいツールを速やかに利用することだ。
4. 大は小を演じるべし……顧客が大物ぶるように仕向け、自分は小物として振舞うすべを身につけるのが、大企業がフラットな世界で繁栄する1つの方法だ。
5. 優良企業は優良共同作業者である。フラットな世界では、多くの事業が企業内・企業間の共同作業によって行われるようになる。理由はいたって単純だ。テクノロジ、マーケティング、バイオメディカル、製造のいずれの分野でも、バリュー創出の次の階層はきわめて複雑になるから、独力でそれをマスターできる会社や部、課はどこにもない。
6. フラットな世界では、定期的にX線検査を受け、結果を顧客に売り込むことで、優良企業が健康体を維持する。
7. 優良企業は、縮小するためではなく、勝つためにアウトソーシングする。それは速やかに安くイノベーションを行うためのアウトソーシングであり、おおせいを解雇して金を節約するのが目的ではない。それによって成長し、シェアを伸ばし、いろいろな分野の専門家をより多く雇う。
8. 会社としてどのように物事を行うかが、現在では一段と重要になっている。
9. 世界がフラット化し、ぺしゃんこにつぶされそうだと思ったら、スコップを持って内面を掘り起こせ。壁を築こうとするな。