自壊する帝国

自壊する帝国 (新潮文庫)

自壊する帝国 (新潮文庫)


約600ページある本ですが、普段知ることができないKGB、ソ連の人々の生活や外交官の暮らしぶりの一部分がかいまみることができ、おもしろかったです。流石にさすがに機密事項は書かれていませんが、それでも始めて知ることがいっぱいありました。読後は解説の恩田陸さんと同じ感想を持ちました。引用しませんので詳しくは本書を参照ください。
ソヴィエト市民の生活では反アルコールキャンペーン時に体の危険を顧みずにオーデコロンや靴クリームからアルコールを接種しようとするアル中市民がいたことに驚きました。
KGB関連ではビクトル・アルクスニス大佐が話した情報操作に関する話は勉強になりました。

KGBは嘘は言わない。ただし、2%しかない要因を誇張し、あたかもそれが真相の9割くらいと相手に信じ込ませる。典型的な手口だよ。」


佐藤さんのソヴィエト駐在の中で出会ったさまざまな人々とのエピソードがつづられていますが、特にサーシャ(アレクサンドル・カザコフ)の印象が強烈で、本当に実在する人物とは思えないぐらいでした。一番印象的な言葉を引用します。

ソ連は壊れる。時間の問題だ。ただ、この体制が生きながらえれば、ロシア人もラトビア人も苦しむ。だからできるだけ早くソ連を破壊するのだ。ソ連を壊すことでロシアを回復するのだ。

その他にはアントニオ猪木氏の訪ソとヤナーエフ副大統領の食事会のエピソードは無茶苦茶でおもしろかったです。
また、ブラジスラフ・シュベード(元リトアニア共産党第2書記)の中東政治の分析は的確だなと思いました。

サダム・フセイン政権が潰れるにせよ、今後、アメリカと折り合いをつけるにせよ、いずれイラクの石油はよみがえる。」
「イラクはカネになるんだよ。エリツィン政権だってイラクを支える気持ちなんか小指の先ほどもない。イラクで戦争が起きれば、アメリカ、イギリス、ロシアで石油利権を再分配する。」
「イスラエルが本気で戦争を起こそうと思えばそうなるよ。ユダヤ人は平和よりも生き残りを望む。イラクで戦争が始まれば、アメリカは泥沼から抜け出せなくなる。そうすれば、イスラエルはアメリカの虎の威を借りて何でもする。」