日本の電機産業に未来はあるのか

日本の電機産業に未来はあるのか (洋泉社BIZ)

日本の電機産業に未来はあるのか (洋泉社BIZ)

  • 作者:若林 秀樹
  • 発売日: 2009/03/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
電機アナリストが電機産業の現状分析や今後の動向、提言などをまとめた本。また電機各社の開発方針や経営体質、強みなども書かれていましたので業界マップとしても価値があると思います。業界についていろいろ勉強することができました。
業界に対する辛辣な主張が多かったですが、その中でも特になるほどと思った主張を引用します。

2010年のタイミングで現れる新技術について

半導体業界のシンポジウムでの1つの結論は「ニッチ分野では、いくつかおもしろい技術はあるが、これまでのような大型新商品・新技術は2010年というタイミングでは出てこない」というものであった。(略)今や、学会などのセッションでも目新しい分野はなく、賑やかだった90年代とは状況が違っている。

自動車産業と電機産業の違い

第一に、自動車は単なる製品ではなく、資産である。
第二に、自動車は、規制の度合いが電機に対して比較にならないほど強い。自己や故障の場合は、命にかかわり、安全性という意味で車検制度が極めて重要だ。関連省庁も、経済産業省だけでなく、国土交通省、警察もかかわってくる。(略)こうした規制や政治や公共投資との関係の強さは、政治力にもつながるし、その影響を受けやすいといえる。これに対して、電機業界も規制と無縁ではないが、かなり自由競争に近い。
第三として、電機業界は、どんどん水平分業が進んでいるが、自動車は垂直統合のままであり、完成車メーカーが仕様を決め、キーパーツであるエンジンやトランスミッションなどを内製化している。
第四は、上記の要素が渾然一体となって、いまだに競争力の弱い企業が各国に残っている。その代表例が米国ビッグ3である。電機業界では、既に多くの名門企業が80年代初めまでに消えていった。水平分業化が進み、ソフトやキーデバイスでは米国が強いが、セット分野の製造業ではもはや生き残りは少ない。したがって、電機のセット分野では、残された日本、韓国、台湾、中国のコスト重視の仁義なき戦いが熾烈さを増している。

以前日本の自動車会社がビッグ3が倒産すると困る、といった内容の記事を読んで疑問に思いましたが、この本を読んで納得できました。それに比べ電機産業はコストで優位性のある韓国、台湾、中国勢と勝負しなければならないので大変だと思います。

総合電機メーカの低迷の要因

第一に、事業領域が広すぎ、短い景気サイクルについていけない。また、水平分業化、スマイルカーブの変化に取り残された。
第二に、官(官公庁)と慣(慣習)からなる国内需要に依存し過ぎ、世界の成長に取り残されてしまった。
第三に、リストラが不十分であり、いまだに売上志向が残っており、赤字不採算事業を抱え続けている。
第四に、研究テーマが問題で、しかも研究開発リソースが分散している。(略)
このうち、第一は総合電機、あるいは総合家電という経営体質に問題が起因し、第二と第三は、いわゆる日本的経営の問題であり、農耕民族的な志向や経営者の面子、労働慣行なども大きいだろう。第四は、総合という体質と日本的経営の両方にも起因しよう。

(第二の要因の補足)
具体的には、いまだに電電ファミリー、電力ファミリーなどの域を脱していないともいえる。日本企業は、よくいわれる高コスト、高スペックに加えて、海外企業が参入を躊躇する低マージンという堀と、官僚と慣習の石垣に守られているかもしれない。そして官公需ITやNTTグループ向け、電力会社向けは、まさにそうした総合電機ならではの権益なのであろう。

(第四の要因の補足)
問題は、それぞれの分野毎の人数であり、全体では圧倒していたデルに対し、デジタル・PC部門では日立、東芝NECともに大きく変わらない。通信では、ノキアはケータイだけで5チーム以上で1万人、モトローラではやはり1万人、サムスンは10チーム6000人規模と推定され、国内ケータイメーカーを圧倒している。デバイスにおいても、サムスンは博士修士だけで5000人以上、全体で1万人規模といわれ、国内勢を凌駕している。(略)
世界の大手電機メーカーと比べ、サムスンには全体規模でも各分野の数でも負けている。他の欧米有力メーカーには全体の規模では勝っているが、リソースが分散しているために、各分野では負けており、特に通信やケータイで著しい。また、基礎的研究を米系は大学などに委ね、自らは研究所を持たない例が多いが、日本では精鋭を研究所に配備している。