世に棲む日々 その2

世に棲む日日〈3〉 (文春文庫)

世に棲む日日〈3〉 (文春文庫)


世に棲む日日〈4〉 (文春文庫)

世に棲む日日〈4〉 (文春文庫)


後半は高杉晋作井上聞多(のちの井上馨)、伊藤俊介(のちの伊藤博文)らの活躍が描かれています。
高杉晋作については奇兵隊を設立したことと結核で大政奉還の前に亡くなってしまった程度の知識しかなかったのですが、彼がどんな活躍をしたのかを知ることができ勉強になりました。
この人の人生は本当に波瀾万丈だと思いましたが、なぜか蛤御門の変久坂玄瑞や来島又兵衛らが戦死した戦い)やイギリス、フランス、アメリカ、オランダの4カ国連合艦隊による下関砲撃など大敗を喫するような戦に居合わせずに(謹慎処分中だった)生き延びたのは不思議だなと思いました。
高杉さんの考えで一番すごいと思ったのは権力に対して無頓着だったことです。というのも自分で立ち上げた奇兵隊の初代総督をしばらくしてすぐに別の人物に譲ってしまうぐらいでしたから。
そして一番格好良いと感じたのは、4カ国連合艦隊の講和条約で日本代表として対応した際に「領土の租借」に対して、ことの重大さを認識した上で頑に拒否した(大げさな演技をした)ことです。後に伊藤博文が以下のように回顧したぐらいです。

「あのときもし高杉がうやむやにしてしまわなかったなら、この彦島は香港になり、下関は九竜島になっていたであろう。おもえば高杉というのは奇妙な男であった。」


本編の主題とは少しずれるのですが、役人に関する考察は江戸末期も今もほとんど変わらないぐらい当てはまるなと思いました。司馬さんも当時からかなり批判的に思っていたのでしょう。

役人というのは、徳川封建制の特殊な風土からうまれた種族で、その精神内容は西洋の官僚ともちがっている。極度に事なかれで、何事も自分の責任で決定したがらず、ばくぜんと、
「上司」
ということばをつかい、「上司の命令であるから」といって、明快な答えを回避し、あとはヤクニン特有の魚のような無表情になる。
(略)やがて「上司」とは責任と姓名をもった単独人ではなく、たとえば「老中会議」といった煙のような存在で、生身の実体がないということがわかる。