銃・病原菌・鉄

ピュリッツァー賞を受賞した歴史書です。10年近く前に出版された本ですが、行きつけの本屋さんで目立つところにありましたので、軽く目を通して面白そうだったので購入しました。
ヨーロッパ人が他の大陸を征服できた要因として『銃器・鉄製の武器、騎馬などにもとづく軍事技術、ユーラシアの風土病・伝染病に対する免疫、ヨーロッパの航海技術、ヨーロッパ国家の集権的な政治機構、文字』を持っていたことだと分析していますが、それらがなぜヨーロッパで生まれたのかについて、差別的な人種論ではなく、地理的な要因から分析しているのが他の歴史書にはないユニークな点だと思いました。

特に面白いと思った考察を引用します。

栽培化に関する考察

アメリカ先住民がリンゴを栽培化できなかった原因は、北米原産のリンゴや人間にあるのではなく、彼らが手に入れることのできた野生の動植物の種類が全体的に限られていたことにある。北米では、生物相全体において栽培化や家畜化が可能な動植物の種類が限られていたことが、食料生産の開始を歴史的に遅らせてしまったのである。

家畜に関する考察

多くの動物は家畜化がうまくいくのに必要とされるすべての条件を満たしていないと判断されるからである。それらの動物は、餌の問題、成長速度の問題、繁殖の問題、気性の問題、パニックになりやすい性格の問題、序列性のある集団を形成しない問題などがあって人間が家畜化できないのである。野生哺乳類のうち、ほんのわずかの動物だけがこうした問題点をすべてクリアでき、家畜となって人間といい関係を持つにいたったのである。
ユーラシア大陸の人々は、たまたま他の大陸の人々よりも家畜化可能な大型の草食性哺乳類を数多く受け継いできた。このことは、やがてユーラシア大陸の人々を人類史上いろいろな面で有利な立場にたたせることになるが、この大陸に家畜化可能な大型の草食性哺乳類が多数生息していたのは、哺乳類の地理的分布、進化、そして生態系という3つの基本的要素がそろって存在していた結果である。(略)最後に、ユーラシア大陸には、家畜化に適した動物が、他の大陸よりも高い割合で生息していた。

家畜について深く考えたことがありませんでしたので、目から鱗なことがいっぱいありました。

宗教と集権化に関する考察

第1に、社会全体でひとつの宗教を共有することによって、赤の他人同士が、互いに殺し合うことなくいっしょに暮らすための下地ができた―赤の他人同士が、血縁にもとづかない共通の絆を、宗教というかたちで持つことができるようになった。そして第2に、この結びつきが、遺伝子的な利己心とは異なる、他の人々のために自己を犠牲にする行為の実践を民衆に動機づけ、戦場で命を落とす兵士の犠牲のもとに、武力による征服や抗戦を社会全体として効果的におこなえるようにしていったのである。

技術伝播に関する考察

日本で銃火器が排除された例や、中国で外洋船が使われなくなった例は、孤立した社会や孤立に近い状態の社会において、既存の進んだ技術が後退した事例として広く知られている。そうした事例は先史時代にも見られる。(略)
こうした例は、一見奇妙に思える。しかし、これはまた、発明や技術が伝播によって取得されることや、地理的要因が伝播に影響をあたえることを示唆している。伝播がなかったなら、取得される技術の数はもっと少ないだろうし、失われる技術の数はもっと多いだろう。

人類の科学技術史は、こうした大陸ごとの面積や、人口や、伝播の容易さや、食料生産の開始タイミングのちがいや、技術自体の自己触媒作用によって時間の経過とともに増幅された結果である。そして、この自己触媒作用によって、スタート時点におけるユーラシア大陸の人々がこういうリードを手にできたのは、彼らが他の大陸の人々よりも知的に恵まれていたからではなく、地理的に恵まれていたからである。

技術伝播が衰退すればするほど、技術革新が行われずに衰退する、という考察は現代社会にも通じると感じました。欧米だけでなく、韓国、中国などアジアでも世界トップの技術が生み出されているので、彼らの技術を学んだり、海外市場に進出することは企業が成長する上で必要なことなのかなと改めて思いました。

メソポタミアペルシャ)地方が衰退した理由

不運なことに、肥沃三日月地帯や地中海地方東部は環境的に脆弱だったのである。そして、これらの地域に繁栄した人々は、自分たちの環境基盤を破壊し、自分で自分の首を絞めてしまたのである。(略)ヨーロッパ西部および北部の社会が同じ運命をたどらなかったのは、肥沃三日月地帯の人々にくらべてヨーロッパの人々が賢かったからではない。ヨーロッパ西部および北部は、降雨量が肥沃三日月地帯よりも多く、植物が再生しやすい土地だったからである。