いのちの初夜

戦前にハンセン病を患った北條民雄氏が書いた小説で、ハンセン病と診断され、療養所へ行くことになった青年を主人公にした話です。
小説の最後にある登場人物が『いのち』や『苦悩』とは何か、について語っていますが、その言葉が人々から隔絶され絶望したであろう筆者だからこそ書けたことだと思いました。引用しますが、非常に重い言葉だと感じました。

人間ではありませんよ。生命です。生命そのもの、いのちそのものなんです。(略)あの人達の『人間』はもう死んで亡びて了ったんです。ただ、生命だけがぴくぴくと生きているのです。なんといふ根強さでせう。誰でも癩になった刹那、その人の人間は亡びるのです。死ぬのです。社会的人間として亡びるだけではありません。そんな浅はかな亡び方では決してないのです。廃兵ではなく、廃人なんです。(略)新しい思想、新しい眼を持つ時、全然癩者の生活を獲得する時、再び人間として生き復へるのです。復活さう復活です。ぴくぴくと生きている生命が肉体を獲得するのです。新しい人間生活はそれから始まるのです。(略)

苦悩、それは死ぬまでつきまとって来るでせう。でも誰かが云ったではありませんか、苦しむためには才能が要るって。苦しみ得ないものもあるのです。