3年で辞めた若者はどこへ行ったのか

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)

3年で辞めた若者はどこへ行ったのか―アウトサイダーの時代 (ちくま新書)


この本では昭和的価値観に従わずに働く人たちが紹介されている。彼らの話を聞いて、うかうかしていられないなと刺激を受けました。

  • 働く上で常に心がけていることは"自分の市場価値を高めていくこと"だ。
  • だが最も重要な変化は、労働者自身の意識の変化だ。与えられるのではなく、望むキャリアを自分で手に入れること。自由を手に入れるためには、義務を担う決意もまた必要なのだ。
  • 日本のIT企業は、モノ作りより人材派遣業と言ったほうが近い。リスクのある開発よりも、仕事を請け負い、SEを派遣することで安定した利益を得ようとする。モノを作りたくて作った会社が、いつの間にか会社を維持するための会社になってしまっているんです。


エピソードを通じて筆者が指摘する社会問題の原因は納得します。

  • 九〇年代に知的立国をうたい、企業(もちろん官公庁も)の構造的問題には一切メスを入れることなく、ただいたずら博士過程の人員を増やした文部科学省の罪は重い。彼らは最初から余剰博士を作りたかったか、あるいはよほどの阿呆ぞろいなのだろう。
  • ビジネススクール(専門職大学院)など大学改革が行われているが、そういった知識をキャリアパスが日本企業内にないのだから、狙い通りに機能するか予断を許さない。
  • 公務員改革の本質は、けして人件費をカットし、天下りを規制するだけの一面的な問題ではないでしょう。各自が新しい価値観を育てていけるシステムの導入こそ、変革への第一歩であるはずです。そう遠くない将来、官僚から天下りという手段が奪われる日が来るだろう。すると組織内での新陳代謝がストップし、ポスト不足が慢性化する。ポストをご褒美とし、出世という形でしか報いられない年功序列制度は、完全に破綻するのは間違いない。
  • 四年間ぶらぶらした挙句、卒業間際になって「何やったらいいんでしょう」と戸惑う人間を量産するような教育システムは、今や社会にとってはもちろん、個人の人生にとっても、大きすぎる損失だろう。

特に格差社会の本質、構造改革の提言はなるほどと思います。

  • 業績悪化やコスト削減という問題に直面した企業は、非正規労働者を使って人件費を節約している。これこそが格差問題の本質なのだ。
  • 日本企業は既得権を守るために、安く使い倒せる新しい階層を作った。
  • 構造改革の本質とは、新たな利益の再分配モデルを作り出すことであり、従来型のシステムで飯を食っていた人間から、そうでない階層へ利益を回すことだ。そしてそれは、国籍をばらまいて老人だけが逃げ延びることでも、中高年の正社員だけに安定した雇用を保証することでもない。各労働者が、正当なたいかを受け取れるようにすること、そのために障害となる規制を取り払う点にある。

しかし実際は格差を是正するのではなく、日本の労働力を削って、更に安いBRIC諸国などのアウトソーシングを活用する方向に動いているように見えます。


特に既得権益の擁護に回っているメディアや左派勢力の批判は辛辣です。

  • 日本の大手メディアは就社意識を物差しに考え、動いている。そういう意味では、日本のメディアは世界一レベルが低い。人材流動のない閉じた世界で安眠を貪るうちに、いつしかそれがジャーナリズムを上回ってしまう。

日本の大手メディアは大衆のものではなく、政府や既得権益のためのものだと思っていましたので特別にがっかりしませんでした。それ以上に、これからの変化に適した政策を挙げずにただ昭和的価値観しか提唱しない左派勢力にもがっかりしました。