地域の力

地域の力―食・農・まちづくり (岩波新書)

地域の力―食・農・まちづくり (岩波新書)


商品化という形で私的所有や私的管理に分割されない、また同時に、国や都道府県といった広域行政の公的管理に包括されない、地域住民の「共」的管理(自治)による地域空間とその利用関係(社会関係)』をベースにした取り組みが取り上げられています。農林業であれ地場産業であれ自治体の仕事であれ、今暮らす場所の環境や生業を大切にし、まっとうなものをつくり、広めるという倫理観と、適度なビジネス感覚をもちあわせている活動が紹介されています。どんなにいい活動であっても事業を存続させるためにはある程度採算性を確保することは大切だと思います。以下の事業の考え方は会社にも当てはまることだと思います。

  • どんな企業にもいえることですが、事業や経営には誰のために何をするかという戦略が必要です。大切なのは、事業が世の中に有用なものとして存続するようにつくりあげることです。そうした活動のなかで、人も育っていきます。


どの活動も暮らす人々が誇りをもって生き生きとしているのが良かったです。特に徳島県上勝町の取り組みは福祉を考える上で重要なヒントになるのかなと思いました。

  • 人間にとって出番があることが一番大事。人を元気にするには出番と評価ですよ。そのカギは、情報を提供する仕組みを整備し、自分の頭で考えるようにしたことにある。
  • 福祉施設をつくればつくるほど、能力を高める生活習慣が失われ、ひいては地域にビジネスが育たなくなるのではないかと思ってます。もっとも重要なのは、どうすれば「要介護状態」にならずに、楽しく、ある程度の社会貢献もしながら老後を過ごせるかだ。
  • 高齢者は弱者だから擁護しなさいというのが国の施策でしょう。上勝では、弱者であってもできることをしていただこう、それが生きがいにつながると考えてきました。人間として幸せなのは、人に何かをしてあげられることだと思います。


個人的に共感できたのは、その地域の出身者だけでなく、外からやってきた人の活動が受け入れられている点です。日本の田舎というのはいわゆるよそ者には優しくない、という印象を持っていたものですから(今はそんなこともいってられないかもしれないですけどね)。本書で紹介されているような活動がもっと普及すればいいですね。