クライマーズ・ハイ

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)


一世一代の事故に遭遇した新聞社の記者の取材の様子や編集部の騒然ぶりは読んでいてワクワクしました。緊張感が伝わってきました。
渾身の出来の現場雑感の掲載を妨害されたり、ギリギリで見送った事故原因スクープの記事掲載が他社に発表されたりと非常に歯痒いところが妙に生々しかったりします。
いろいろ話題が発散したりしますけど、最終的にきれいに収束しているので読んでよかっです。合間合間に顔を見せる部署間(というよりかは派閥間)の軋轢や、上司の横槍なんかに関する描写は読んでいて苦痛でしたけど。


日航機事故をモチーフにしてますが、個人的には「父親と息子の関わり合い」と「いのちの大切さ」を描きたかったのかなと感じました(何を感じるかは人それぞれですけど)。
前者ですが、主人公の悠木は以前自分の息子とぎくしゃくした関係にありました。正直自分も父親が自分のことをどう思っているのかわかりせんし、父親も同じ気持ちかなと思ったりするので、父親が息子に対して臆病になるのもは何となくわかります。(同僚の安西の息子の)燐太郎との登山をきっかけにお互いに分かり合うようになったことを登山の最中に燐太郎に告白するのはなんか清清しかったです。

後者はある女子学生の投稿に関する件です。筆者が新聞記者時代から悩んでいたことなのかなと思ったりしました。

人の死をとことん悲しく伝えたがるのはマスコミの性癖みたいなもんだ。読者が読もうが読むまいが、書いて、作って、配るのが新聞だろうが。五百二十人死んだら五百二十本泣かせを書く。そういう仕事じゃねえか。

どの命も等価だと口先で言いつつ、メディアが人を選別し、等級化し、命の重いを決めつけ、その価値観を世の中に押しつけてきた。