異邦人

異邦人 (新潮文庫)

異邦人 (新潮文庫)


言わずと知れたカミュの代表作です。養老院に預けていた母親をなくした若者ムルソーが葬儀の次の日に恋人と海で遊び、そしてアラビア人を殺した、というお話です。人殺しは(自己防衛の側面があったとしても)悪いことですが、葬式で世間一般の人がとらない態度(母親の顔を見なかったり、眠そうだったり…)によって世間から異物扱いされるのは何だかなあ、と思ってしまいました。
他人に迷惑をかけなければ何をやってもよいとまでは言いませんが、みんながみんなが模範的な行動をとる必要はなく、自然に思ったまま行動することが悪いことだと思えないのです。
特に葬式のくだりはヨーロッパだけなく、日本の世間体に通じる問題なのかなとも感じたりしました。


カミュが物語を通して言いたかったことは英語版に寄せられた以下の自序を読めばわかるかと思います。

「…母親の葬儀で涙を流さない人間は、すべてこの社会で死刑を宣告されるおそれがある、という意味は、お芝居をしないと、彼が暮す社会では、異邦人として扱われるよりほかはないということである。ムルソーはなぜ演技をしなかったか、それは彼が嘘をつくことを拒否したからだ。嘘をつくという意味は、無いことをいうだけでなく、あること以上のことをいったり、感じること以上のことをいったりすることだ。しかし、生活を混乱させないために、われわれは毎日、嘘をつく。ムルソーは外面からみたところとちがって、生活を単純化させようとはしない。ムルソーは人間の屑ではない。彼は絶対と真理に対する情熱に燃え、影を残さぬ太陽を愛する人間である。彼が問題とする真理は、存在することと、感じることとの真理である。それはまだ否定的ではあるが、これなくしては、自己も世界も、征服することはできないだろう…