100年の難問はなぜ解けたのか ー天才数学者の光と影

NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影

NHKスペシャル 100年の難問はなぜ解けたのか―天才数学者の光と影


ポアンカレ予想の証明に挑み、翻弄された数学者たちの軌跡を紹介したドキュメンタリ番組の書籍版です。ポアンカレ予想は難しい話題であるにも関わらず、図などを駆使してわかりやすく説明されていて、かつ物語としてもとても面白かったです。去年見たドキュメンタリ番組では(個人的に)トップ3に入るぐらいの出来でした。

本を読んで、ポアンカレ予想に挑んだ学者のアイデアをより理解できるようになったのと、そして何よりディレクタの熱意を感じることができてよかったです。

ポアンカレ予想とは『単連結な三次元閉多様体は、3次元球面に同相である』というもので、宇宙の形を知る手がかりにもなる重要な問題です。わかりやすく噛み砕くと、『ある四次元空間にかけたロープが回収できれば、その空間は「丸い」といえ、この考え方を使うと、宇宙の中にいながらにして宇宙の形がわかる』らしいです(うまく説明できません)。

この話の主人公は証明したペレリマン博士ではありますが、それ以外に印象に残ったのはサーストン博士です。『宇宙が8種類の断片(形)の組み合わせで出来ている』という幾何化予想を提示されたことも凄いですが、教育者としてもすごいと思いました。りんごと葉っぱの形から正と負の曲率の曲率の違いを説明していた部分はわかりやすかったですし、『優れた定理を証明し続けることが必ずしも数学の発展につながらず、むしろ数学者のやる気をそいでしまうこともある』と気づき、数学教育や周囲とのコミュニケーションに力を注ぐように姿勢を変えることはなかなかできないと思います。

ペレリマン博士のアプローチも凄いと思いました。トポロジーを象徴する難問を微分幾何学のアイデア(立地フロー)で切り崩し、そして『L関数』という概念を導入し、時間を未来そして過去へと自由に操ることで特異点を克服したことは本当に凄いです。

数式はほとんどないので、文系の人も楽しめると思います。