武満徹エッセイ選 -言葉の海へ

武満徹エッセイ選―言葉の海へ (ちくま学芸文庫)

武満徹エッセイ選―言葉の海へ (ちくま学芸文庫)


作曲家武満徹氏のエッセイ選です。読みやすく、わかりやすいです。
若い頃は戦後で教養も十分に受けず、ピアノ借りるお金も十分になかったという話を読んで、世界に認められるのは本当に大変だったんだと感じました。
それから代表曲であるノベンバー・ステップを作曲するに至った心境についていくらか記述がありましたが、彼が最初から日本音楽に絶対的な価値を見いだしていたのではなく『西洋を学び、自己を振り返って始めて客観的な視点で向かい合うために作曲にとりくんだ』といったくだりには好印象をもてました。
一番印象に残ったのは以下の言葉です。

孤独な感情が触れあうところに、音楽が形をあらわす。音楽はけっして個のものではなく、また、複数のものでもない。それは人間の関係のなかに在るものであり、奇妙に聞こえるかもしれないが、個人がそれを所有することはできない。
が、しかしまた、音楽はあくまでも個からはじまるものであり、他との関係のなかにその形をあらわす。


それ以外は当時トロント交響楽団の音楽監督に赴任した小沢征爾が国家演奏を中断した理由はなるほどと思いました。

  • 音楽は人間のものであり、そこにナショナリズムが出てはならない
  • 国歌というものは大体あまり音楽的ではないからそれを良い音楽の前に演奏するのは互いに不愉快なことだ