ご冗談でしょう、ファインマンさん

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈上〉 (岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)

ご冗談でしょう、ファインマンさん〈下〉 (岩波現代文庫)


物理学者ファインマン教授のユーモアあふれるエッセイです。
専門的な話題はほとんどありませんので文系の人でも楽しく読めると思います。
さまざまなエピソードがありますので、人それぞれ楽しめるかなと思います。


日本好きでホテルではなく旅館に泊まりたがっていたお話とか戦争時代に手紙の検閲を逃れるために悪知恵を働かせたお話を聞くと大物理学者といえ、なんだか親近感がわきました。
物理とは関係ない話題が多いとはいえ、子供の頃のラジオ修理のお話やペンキの話であきらかに嘘だろうという話でも真偽を確かめるために検証したお話など研究者としての素養を感じさせるエピソードも多かったです。
また専門外の生物の研究成果があのワトソンに見いだされてハーバード大学で講演したというのも凄いなあと思いました。


この人は凄いなと思ったのは、一時期燃え尽きかかった頃にノーベル賞のアイデアの素になったファインマン・ダイアグラムを見いただした時のお話です。仕事の価値など度外視でただ自分が楽しむために始めたことがきっかけで偉大な発見のアイデアがすらすら出てくるのは、やっぱり違うなと思いました。

こうなると努力なんぞというものはぜんぜん要らなかった。こういうものを相手に遊ぶのは実に楽なのだ。びんのコルク栓でも抜いたようなもので、すべてがすらすらと流れ出しはじめた。この流れを止められるものなら止めてみよと思ったぐらいだ。そのときは何の重要性もなかったことだが、結果としては非常に大切なことを僕はやっていたのだ。


一番印象に残ったのはあのロスアラモスでのエピソードです。

だがこのすべては、ほんの一分ほどのできごとだったのだ。すさまじい閃光から暗黒へとつながる一連のできごとだった。そして僕はこの目でそれを見たのだ!この第1回トリニティ実験を肉眼で見たのはおそらくこの僕一人だろう。他の連中は皆黒眼鏡をかけてはいたし、六マイルの地点にいた者は床に伏せろと言われたから、結局何も見てはいなかった。おそらく人間の眼でじかにこの爆発実験を見た者は僕のほか誰一人いなかったと思う。
そして一分半もたった頃か、突然ドカーンという大音響が聞こえた。それから雷みたいなゴロゴロという地ひびきがしてきた。そしてこの音を聞いたとき、僕ははじめて納得がいったのだった。それまではみんな声をのんで見ていたが、この音で一同ほうっと息をついた。ことにこの遠くからの音の確実さが、爆弾の成功を意味しただけに、僕の感じた解放感は大きかった。