言葉と戦車を見すえて

言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)

言葉と戦車を見すえて (ちくま学芸文庫)


昨年お亡くなりになった加藤周一氏の政治や社会に関する論考集。
『きけ わだつみのこえ』に関する考察が1番印象に残りました。

一方には、戦争すなわち死があり、他方には納得することのできないファシズムの実体があった。またもちろん青春のあり得たかもしれないよろこびや希望があった。問題は多くの青年にとって、目前に迫った死を無意味な犠牲として迎えるか、何らかの意味あるものとして迎えるか、ということに帰着せざるをえなかった。死を避けようとする努力の余地は、この世代にとっては、ほとんど閉ざされていたからである。この状況のもとでは、戦争権力に半ば反発しながら、半ば協力することで、自己の内面にある矛盾を表現する「敗戦日記」の態度は、原則とり難い。戦争を肯定するならば、それが自己の死を肯定できるような絶対的な価値として肯定しなければならない。「きけ わだつみのこえ」は、死に意味を与えようとする精神的な努力の集成であるということができる。