- 作者: 内田樹
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/07
- メディア: 新書
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内田樹氏がユダヤ人問題について考察した本です。なじみが薄いユダヤ人問題について丁寧に解きほぐしていてます。善意をもっている普通の人間がユダヤ人虐殺に加担したのか、というのがモチベーションになっているように感じました。
個人的におもしろいと感じた箇所を引用します。
ユダヤ人は「ユダヤ人を否定しようとするもの」に媒介されて存在し続けてきたということである。言い換えれば、私たちがユダヤ人と名づけるものは、「端的に私ならざるもの」に冠された名だということである。
日猶同祖論者は「日本人もユダヤ人もともに同じ迫害を受けている仲間である」というふうに考える…では「親ユダヤ」なのであるが、そこから「ユダヤ人もまた日本人と同じく、傷つけられた霊的威信を回復して、再び世界を睥睨する地位に就こうとしている」という展望を語るとき、それはただちに「反ユダヤ」に転化する。
日猶同祖論という思想の特徴は、このユダヤに対する親和的・共感的態度が、ユダヤに対する恐怖と無矛盾的に同居しているという点にある。
殺意と自責の相乗効果?に関する考察が特に印象に残りました。
私は先に「殺意を抱きつつ同時にそのことについて有責感を抱いている人間」の方が「端的に殺意だけを抱いている人間」よりも危険だと書いた。それは殺意と有責感の葛藤は、葛藤がない場合よりも多くの心的エネルギーを殺意と有責感の両方に備給するからである。「単なる殺意」よりも「有責感を帯同する殺意」の方が、殺意の根が深い。
(略)
親しい人に対する殺意や敵意が誰にでも潜在的にあって、それが抑圧されるというような単純な話ではおそらくない。まず愛情や欲望があり、それをさらに亢進させようと望むとき、私たちはそれと葛藤するような殺意や敵意を無意識的に呼び寄せるのである。
(略)
だから、自分は愛情が深い人間だと思っており、かつその愛情の深さを絶えず確認したいと望む人間ほど危険な存在はない。
ユダヤ人関連の書籍では他にこちらも読みました。
- 作者: シュロモーサンド,高橋武智(監訳),佐々木康之,木村高子
- 出版社/メーカー: 武田ランダムハウスジャパン
- 発売日: 2010/03/26
- メディア: 単行本
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こちらはユダヤ人の学者さんによるシオニズム運動の根拠となる考え方を様々な文献を引用しながら否定した本です。正直内容は深くて理解し切れなかったのですが、ナショナリズムの説明等はイスラエル、パレスチナだけに当てはまる問題でもないので興味深く読ませていただきました。一番凄いことはそのような本がイスラエルで出版されて、ベストセラーになったことです。