サラエヴォ・ノート

スペイン人作家による旧ユーゴスラヴィアボスニア・ヘルツェゴビナ紛争のルポルタージュです。本紛争に関しては、当時小学生でTVニュースで紛争が行われていたことと、教科書程度の知識しかありませんでした。興味があるトピックではあるものの、本紛争に関わる本を今まで読んでことがありませんでした。妻のお父さんが持っていて、それを頂いて読みました。

取材されたのが1993年ですが、出版されたのも1994年と紛争真っ只中でした。本紛争をざっくり簡単に言うとボスニア人(ムスリム系)、セルビア人(ギリシア正教系)、クロアチア人(カトリック)の3勢力の紛争です。人種、宗教の違いも相まって、ジェノサイドまで起きてしまった悲しい出来事です。
本書ではモノクロ写真はいくらか掲載されていますが、文章からでも当時の残酷さ、理不尽さを感じることができました。写真では表紙にもなっている「ボスニア図書館」の惨状が一番痛みました。

本書は反セルビア勢力なトーンで描かれています。誰が悪いか一方的に断罪するのはできないと思いますが、間違いないのは子供や老人を始めとした庶民、弱者が一番理不尽な目にあうことです。筆者の政治的な主張は置いといて、彼らに寄り添って取材する姿勢は間違っていないのではと思います。
例えば、道路を移動する際は常に銃声に怯えたり、そんな中ポリタンクで水を運ぶ(水道などインフラが破壊されているのでしょう)など本当に恐ろしいと思います。そして遺体が安置所に次々と運ばれる様は異常だと思います。

ユーゴスラビア時代は他民族で共生したはずが、民族同士の対立が煽られて、それこそ異民族のご近所さんが平気で敵になってしまう状況というのは、言葉にならないくらい悲しいことですし、一方でそれによって憎しみあってしまうことは否定できないもどかしさを感じました。
そんな中で、あるボスニア人が語った言葉が一番印象に残りました。そんな人が本当に強い人間だと思います。

忘れることはないだろうが、許すことはできるだろう