- 作者:勝, 金子,デウィット,アンドリュー
- 発売日: 2008/10/07
- メディア: 単行本
この不況は通常の景気循環における不況ではない。イラク戦争による軍事的財政的破綻、石油価格の高騰とバブル崩壊が重なった特殊なスタグフレーション、証券化とグローバル化が世界中を巻き込んだ同時不況の危険性ーこれらの現実を連関させていけば、すべてが一点につながっていく。それは米国の覇権(ヘゲモニー)の危機である。
上記以外で知った事柄を列挙します。
「影の銀行システム*1」の崩壊
金融セクターが経済活動を支える役割から、経済そのものを主導するようになりはじめたと特徴づけている。
製造セクターはGDPの25%から13%まで下がっている。
店頭デリバティブの取引残高は、2007年6月には約516兆ドルまで膨らんだ。2000年当時の家計資産合計125兆ドルの4倍以上に達している。
「影の銀行システム」の特徴は連結対象外にされていること。つまり銀行や証券会社の本体の決算には直接あらわれない。
またFRBやSECの監督規制が及ばない。
「影の銀行システム」と呼ばれる所以は、証券という本来信用創造のないものを、しかも長短の金利差を利用してぐるぐると膨らませていくことが可能な仕組みを作った点にある。
証券化という手法そのものが損失を確定できない事態を生んでいるからである。
いろいろなローン担保証券を組み合わせて人為的な証券を作ると、もともとの利益の出所が複雑に入り組んでいるのでわからなくなってしまい、価格づけそのものが難しくなってしまう。プロの投資家でさえ、どういう実体の証券だかわからない。しかも取引所を介さずに店頭で取引しているものなので、不透明性を免れない。
米国の金融機関は、この間ずっと「グローバル・スタンダード」だとして押しつけてきた連結決算*2や自己資本比率規制の抜け道を自ら作りだし、時価会計主義*3も守れない状態を作りだした。しかも、そのリスクをグローバルな規模でばらまいたのだ。
金融危機について
たしかに金融緩和や流動性を供給すると、当面、金融機関の破綻は防げるが、金融機関が不良債権を抱えたままでは信用収縮自体を止められない。やがて再びバブルを引き起こすしか出口がなくなってしまうのだ。一方、多少の減税政策を実施しても、企業も家計も借金(債務)返済に追われているので、消費や投資の減退を止めるところまではいかない。せいぜいのところ従来のマクロ経済政策は、不良債権処理の間、景気減退を緩和するための補助的手段としてしか使えないのである。
エネルギーコストの上昇は、グローバル市場をフラットにして多くの国々を豊かにするという市場原理主義の「理想」を「夢想」に変えてしまうのだ。
石油や食糧価格の上昇を「投機マネーのせい」だと避難する傾向が強まっているが、そこには大きな落とし穴がある。日本の環境エネルギ政策の決定的遅れを免罪しようとする意図が隠されているからだ。