隠れた人材価値

隠れた人材価値 (Harvard Business School Press)

隠れた人材価値 (Harvard Business School Press)

良い人材の確保に力を入れている企業のケーススタディを紹介した本です。
筆者が以下のように「価値観」を重要視していて、それを反映した経営、人材育成するのが肝要だと言っていると理解しました。

(本書で取り上げた成功事例の)どの企業にも非常に分かりやすく、明快な言葉で表現された価値観があるという事実だ。しかも、社内の皆がこの価値観を広く共有していて、価値観が経営慣行の基盤として機能している。

どの企業も理解していることだと思うのですが、実践、社員への浸透は本当に難しいと思います。


この他気になった点として、この筆者は管理や指示を重視した制度を重視した会社をよくないと思っている節は感じられました。特に会長のロジャース中心に強固な管理システムを構築しているサイプレスに対する口調は厳しいものを感じました。

サイプレスの経営アプローチは、リスクを取って飛躍的なイノベーションを実現するのには適していない。技
イノベーションには不確実性が付き物である。ところが、サイプレス経営アプローチは行き届いたコントロール、モニター、情報の収集・共有によって、不確実性を小さくしようと意図されている。だからこそ、大量生産、低コストのSRAM市場で、これまで巨大企業に押しつぶされずにきたのである。しかし、大胆なイノベーションを目指す上では、上記のようなアプローチ、各種制度、インセンティブ、文化までもがマイナスに働いてしまうようだ。
サイプレスの事例から学ぶべき大きな点は、価値観や能力は重要ではあるが、長い期間にわたって高業績を上げ続けるためには、それらと戦略のベクトルを合わせなければならない、市場で役に立つ能力を生み出さなければならない、ということである。

だからか分かりませんが、成功事例として取り上げられる企業よりもサイプレスの事例は興味深く読むことができました。実際、筆者が冒頭でトルストイの名作『アンナ・カレーニナ』の有名な一文を引用していますが、その通りなのかなと思ったりしました。

幸せな家族はいずれも似通っている。たが、不幸な家族にはそれぞれの不幸のかたちがある。


現在、合併を経験していない世界のトップ企業はレアだと思います。だからこそ、合併の可否が企業の成長条件の1つだと考えています。その点に関して、シスコの事例の中で以下のように述べられていました。

重要なのはテクノロジーよりもむしろ人材で、M&Aを成功させるためには全力で人材流出を防がなければならない。複数の事業ユニットで上級副社長を務めるセルビー・ウェルマンによれば「わが社は敵対的な買収を行うことはありません。このルールを徹底するためには、買収プロセス全体を通してー買収後も含めてー誠実さと信頼を大切にすることです。全ての関係者に情報を漏らさずに伝え、『不意打ち』を避ける。こうして、できるだけ多くの社員に残ってもらえるようにするのです。」