日の名残り

イギリス在住のカズオ・イシグロ氏による小説です。小難しいそうだなと思い、当初は避けていました。ふと本屋で目にして手に取ってみると、それほど難解で無さそうな気がして、購入して読んでみました。
イギリスの名家に仕えた執事が主人公で、彼が休暇をいただいて以前一緒に働いた女中頭に会いに旅行に出るという話です。道中で、「品格とは何か」を考えているうちに、過去の回想がはさみながら(そちらのほうがボリュームが多いです)物語が展開されていきます。ネタバレになるので詳細は避けますが、自分が信じる道を歩んできたつもりの主人公が最後涙を流すシーンは物悲しく感じました。
とはいえ同時にこんなふうにも思っており、自分自身も老後このように胸を張れるように生きたいなと常々考えています。

人生が思いどおりにいかなかったからと言って、後ろばかり向き、自分を責めてみても、それは詮無いことです。(略)そのような試みに人生の多くを犠牲にする覚悟があり、その覚悟を実践したとすれば、結果はどうであれ、そのこと自体がみずからに誇りと満足を覚えてよい十分な理由となりましょう。


全体的に落ち着いた文体で書かれていて、紅茶を飲みながらじっくり読書したい本でした。老後に読むと違った楽しみがあるようにも感じています。戦前のお屋敷の様子などは想像していたものに近い感じでした(もちろんその時代に生きていませんし、そのような場所に行ったこともないのですが、なんとなくそう感じました)。
こういう本は事前知識なしに本屋で探してもなかなかめぐりあったことがなく、著者がノーベル文学賞を受賞というきっかけで興味を持つことができて、良かったと思います。